【旅、追憶の果て】 

     A R6・4・3 更新



 「明後日から雨がしばらく続きそうだから、桜を見に行こうか?」
 「そうね、もう満開に近いので、雨のあと風が吹いたら、まずいよね・・」
 「じゃ、そうしよう。お義母さんも誘って明日行こう」
 宮崎県中央部にある西都市の西都原(さいとばる)公園へ行くことにした。ここは4世紀から7世紀にかけて築造されたわが国でも最大級の古墳群があり、台地に広がる農地の中に多くの古墳が点在し、訪れる人々の心を癒すように春夏秋冬の風景と悠久の歴史が待っている。

 巨大古墳はその地を治めていた王や権力者、又はその親族等のお墓であるといわれている。これらは日本のみならず世界各地で同じようなことがいえる。僕の脳裏に甦ってくるのは、エジプトの王家の谷、ツタンカーメン王墓へ入った時のことである。
 入場券を渡して中に入ると、幸か不幸か、僕一人であった。その時は、
 あ、よかった。騒がしくなくて!と思った。
 照明が少し点いた羨道を一人で降りてゆく。前にも後ろにも人影はなく話し声もしない。見回すと薄暗い壁に自分の影が映り、追ってくるように感じた。なんとなく身震いを感じながら、長く歩いていたように思えた。
 ようやく玄室に着いた。
 すると、それまでの不安や恐れはなくなり感動だけが待っていた。しばらくその中で時を過ごした。復路、ゆるい羨道を上っていくと、ようやく降りてくる二人の西洋人とすれ違った。お互いの影が交わり、足音と共に見知らぬ次元へ飛び去るように消えていった。
 
 西都原の桜は満開で僕らを迎えてくれた。
 「うわ〜! いい時に来たねー!」
 同じ言葉が三人一緒に出た。
 風が吹き、枝が揺れる度にちらちらと花びらが舞っている。
 菜の花も満開で、そよぐ風がそれらの香りを運んでくる。


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